連載「あかるいところ」
北欧の話 -ノルウェー編-
SIGUNATURE 2004/5 No.471
毎年この時期になると北欧を訪れたくなる。
それまで深い雪に覆われていた氷点下の真っ白な世界が、光の訪れと共に色彩溢れる世界に変わっていくその感じが、ある種写真行為そのものにとても似ているような気がして心惹かれるのである。
白夜を迎えた北欧の夜は、一晩中ほんのりと明るい。いったい人びとはいつ寝ているのだろうと心配になるほどだが、むしろ彼らはその光を楽しんでいるようにも見える。そして、こうした風景のなかから「北欧神話」に象徴される北欧の世界観も生まれた。
光と氷がぶつかり合って巨人ユミルが生まれ、やがてその躯体が九つに分かれ、宇宙を貫いてそびえるトネリコの巨木イグドラシル(宇宙樹)を中心にした世界が開闢した。宇宙樹の上部に神々の世界アスガルドがあり、その木のほぼ中央部には人間の世界が、そして地下には侏儒(こびと)が住む世界があると神話は語り継ぐ。
それにしても不思議なのは神話。ギリシャ神話にしても古事記にしても、その世界観は「天界」「冥界」「海」で構成され、なぜか我々が暮らす地上界については言及されていない。神話の世界に思いを馳せる時、私はいつもそのことを思い出す。そしてこれは自身の世界は自身で築けという、ひとつの暗示なのかもしれないと思うのである。平地に比べて少しだけ天界に近い山は、その分特別な場所なのかも知れない。
そんな思いも手伝ってか、「国民ひとりにひとつの山」といわれるほど多くの山々とフィヨルドに囲まれたノルウェーの風景は、「北欧神話」そのもののように私には映った。
西岸に、七つの山に囲まれたベルゲンというノルウェー第二の都市がある。もともと十四世紀から十六世紀にハンザ同盟で栄えた港町で、今なおその趣を色濃く残している。
ノルウェー最大の音楽家グリーグもこの地で誕生し、毎年この時期になると世界中から著名な音楽家が訪れ「ベルゲン音楽祭」が開催される。
私がベルゲンを訪れたのはちょうど音楽祭のシーズンだったので、室内楽のチケットを手に入れて演奏会に向かった。会場はフィヨルドを見下ろす小高い丘の上に立つグリーグの生家。薄紫色の白夜の空の下で演奏されたグリーグの音楽は、静かにフィヨルドと山の間で静かに響き合い、その光を待ちわびるような旋律がノルウェーの自然そのもののように聴こえた。
ベルゲンの地形はノルウェー独特のもので、山が海岸線まで迫り、狭い平地を埋めるように白い木造の家が密集している。その有り様を見ていると、この地から家具をはじめとする美しいデザインが多々生まれていることが、素直に納得できるから不思議である。
北欧の秀逸なデザインが生まれた背景に、彼らの生活環境が深く関わっていることを語らずにはおられまい。一年の半分を寒くて暗い冬に閉ざされてしまう北欧では、人々の太陽の光に対する憧れはなみなみではない。だから室内のインテリアに決して暗い色を使ったりはしない。太陽の光がたくさん入るような大きなガラス窓と白木の家具を設え、明るい色のインテリアを好む。
現代我が国でも、北欧のインテリア、デザインは大流行だが、これは日本に限ったことではなく世界的な傾向のようだ。それはもしかしたら、自然とかけ離れたところで進化していく近代社会の歪みのなかで、原初の世界観を模索しようとしている人の本能なのかも知れない。
福祉にしても環境問題にしても、それは彼らにとって能書きではなく、常に厳しい自然環境と向かい合うことから必然として生まれたものである。そしてそのすべては、暗く長い冬の後に訪れる暖かい光が生み出しているといっても過言ではない。
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