2001/09/08 「嵐が丘」の舞台「Haworth」から「London」に戻って
今ぼくは、ロンドンでこのページを書いている。今回はプライベートではなく、桑島法子さんという声優さんのレコードジャケットの撮影で、英国を訪れている。場所は、今回のアルバムのコンセプトの一部でもある「嵐が丘」の舞台「ハワース」で行われた。そこは作者のブロンテ姉妹の故郷でもある。残念ながら、ぼくはこの「嵐が丘」という本はもともと苦手であった。といっても読んだのが、高校生の時だから、今読み返すとまた違った印象を持つのであろうが、ここに書かれている、いい意味でも悪い意味でも「女の情念みたいなもの?」に、何となく拒絶感を持っていた。しかし、何年か前に個人的に大ファンでもある「イザベル・アジャーニ」が「ブロンテ姉妹」という映画で「エミリー・ブロンテ」役を演じてからというもの、「ブロンテ」と聞くと「アジャーニ」というようにビジュアル面では、かなりの好印象である?至って単純で、自分でも情けないが、「イザベル・アジャーニ」のいう女性は、ぼくにとってひとつの女性というものの偶像になっているのかもしれない。それは別にして、今回の撮影は、いくつかの事情によって?かなり本気である。そんな思いと共に「ハワース」を訪れたわけだが、街そのものは、ただのいわゆるイギリスの田舎街である。その上「ブロンテ姉妹」という売りがあるので?妙に観光地っぽくなっている。印象としては、非常に可愛いホテルのせいもあって、最初は「清里」な感じであった?
それでも、やはり都会に比べて空気も美味しいし「東京という現実」から、離れることによって、感覚はいつにも増して、不思議とリラックスと同時に、敏感になっていたのは確かなようである。とにかく、何となく浮世離れしていて、何年か前に、それこそ「MG」という車の仕事で、イギリスのカントリーサイドをくまなく廻ったことがあるが、「ハワース」には、その時感じた、人々の生活の中における「正しい田舎の景色」とはまた違った、空気がそこには存在していた。
そのような、いつもと違った不思議な空気の中で撮影は始まった。
1日目は近郊の洋館で撮影をした。そして2日目は「Top Whithins」という「嵐が丘」の作者「エミリー・ブロンテ」がその構想を練ったと言われている、ヒースが咲き乱れる丘に、およそ30分程かけて登ったのである。ここは天候が不順なことで有名な場所なのだが、幸いその日は天候も良く、最後までシャワーを浴びることもなかった。ぼくたちは、ただひたすらに「Top Withins」を目指して、美しい紫色のヒースの中に続く道を歩き続けた。
その場所にたどり着くと、写真では見たことがあるのだが、石づくりの家跡と、とても象徴的な木が二本立っていた。それはまるで、彼女の意志と何かの関係を象徴するように、その美しい容姿をたたえていた。
そして、そこはまさに「風」の通り道であった。ぼくは、その丘に立った瞬間、恥ずかしながら、言葉で表現することが難しいほど、無性に感動していた。その風景が、美しいのはもちろんのこと、遠い昔に、この丘に今では「嵐が丘」という世界的な小説を書き上げた情熱的な女性が本当にいて、そして何より、そのことがとてもすてきなことだと自然に思えたことで、何故か心が震えた。
とにかく、そこが特別な場所であることは、誰が見ても明らかで、しかも、それが当たり前に存在していることが、何よりのことのように感じたのである。
「Top Withins」に向かう道より見える景色ここでは、とにかく時間がゆっくり流れている。現にぼくたちも、なかなかイメージどおりの光にならなかったり、風が吹いてくれなかったりと、この丘の上で、かなりの時間をここで過ごしたはずである。しかし、ある部分においては、何もないのに、一瞬たりとも飽きることはなかった。むしろ「ずっと、ここに居たい」という思いの方が強かったかもしれない。そして、この空気が下界にも続いていることがはっきりと感じ取ることが出来たのである。
This is Top Whithins !
全体的にはこんな感じぼくはきっと、いやここを訪れた人はすべて、一生この特別な景色を忘れることはないように思う。そして、この丘の風の中で、様々な思いの中で、しかもとても強い意志を持って、カメラの前に立っていた「桑島法子」の姿も忘れることはないような気がしている。あの時の彼女の瞳の輝きをどこまで、写真という道具で捕らえることが出来るのかどうかは、定かではない。ぼくはただひたすら、いつもと同じようにしっかりと彼女に向かい合ったのである。ただひとつだけ、彼女が見たもの、感じたものは、ぼくのカメラに確実に収まっているであろうことは間違いない。
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左:ホテルの目の前のハワースのメインストリート 右:ブロンテ姉妹のお兄さんがいつも座っていたいすがあることで有名なバー今回の撮影は、この街の空気がそうであるように、すべてがこの丘に集約されていたような気がする。
今、ロンドンという都会の中で、改めて「Top Withins」に思いを馳せると、彼女の顔も、庭に咲いていた美しい花も、空に拡がる雲も、すべてがあの風の中にあったかのような、錯覚を覚えるのである。そして、この不思議な一致が、実は「嵐が丘」という話の核になっているような気もしてきたので、帰ったら改めて、読んでみようかと思っている。そして、最後にこの出来上がりを、ぼくも心から楽しみにしている。